独り言


とりとめのないつぶやき
by pooch_ai
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掌説 <五月になれば>

 
c0019055_1141888.jpg 去り行く桜の季節を惜しみつつ、今回は、ショート・ショート・ストーリーを、お届けすることに。




 
 今日、また、僕は、約束の猿江公園へ行ってみた。


 桜は、すでに、満開の時期を過ぎてはいたけれど、桜の花越しに、「三角帽子の時計塔」が見えたときは、期待に胸が高鳴った。
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 だが、やはり、みどりさんの姿は、どこにも見えなかった。

 「ユースケ、必ず、また、会おうね。三角帽子の時計塔の下だよ」
最後に会ったとき、みどりさんは、そう言ったのに・・・。

 ベンチに腰を下ろして、本を読んだり、時計塔から、余り離れない範囲内で、ゆっくり、公園内を散歩したりして、かなりの時間待ってみたが、みどりさんは、ついに現れなかった。



c0019055_1183335.jpgそろそろ帰ろうかな、と思ったそのとき、不意に、「チロ、チロ、どこなの?」と、遠くで、女の人の声が聞こえ、僕の横を、鎖を引きずった子犬が、駆け抜けていった。



 「みどりさんだ!」僕の胸は、ドキンとした。が、犬を追って来たのは、みどりさんとは、似ても似つかぬ、ずっと年上の女の人だった。

 「ダメじゃないの、ひとりで、先に行っちゃ」と、子供を叱るような口調で、子犬を抱き上げ、その女の人が立ち去ってしまうと、夕暮れの近付いた、公園には、人影も見えず、うら悲しい感じがした。

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 あれは、去年の秋。まだ、僕が、中1のときのことだった。
3連休を間にはさんで、検査入院していた僕は、シーツ交換のため、部屋から追い出され、休憩室のソファに腰を下ろして、雑誌のページを、パラパラめくっていた。


 「悪いけど、少し詰めてもらえる?」
突然、頭の上から声が降ってきて、見上げると、アジエンスって、シャンプーのCMに出てくるような、髪の長い、きれいなお姉さんが、僕の前に立っていたのだった。c0019055_11415159.jpg



 「あっ、はい」
 あわてて立ち上がったとたん、僕の点滴の台が、あやうく倒れそうになり、「危ない」と、彼女が、それを支えてくれて・・・。
それが、僕とみどりさんとの出会いだった。



 「私、みどり。医者は、言葉を濁しているけど、癌に違いないと思うんだ。で、そっちは?」
サバサバした口調で、事も無げに、言ってのける彼女に、僕は、半ばあっけにとられ、すぐには、言葉が出なかった。


 「あっ、僕、悠一です。なんとかって腸の病気らしくて・・」
「そうか。食べ盛りって感じなのに、食事抜きで、ユースケも辛いね。でも、病気になんて負けるなよ」

 みどりさんは、外見には似合わぬ、男のような口調で、そう言うと、点滴の台の方に、あごをしゃくるようにしてから、僕の肩を、軽くたたいたのだった。


c0019055_1221617.jpg 「はあ、ありがとうございます」
 「ねえ、その他人行儀な、言葉遣いはやめよう。ユースケと私は、いわば、病気と戦う戦友同士」
「あの、僕、ユースケじゃなくて、悠一・・」
「いいの、いいの。私は、ユースケの方が好きだから」

「そんな、サンタマリアみたいじゃないですか」
「はあ?」
「ああ、ユースケ・サンタマリア?」
「私は、あいつ、嫌いじゃないよ。結構、芝居、上手いしね」
そんな話をしていたら、看護婦さんが
「伊田葵さんいらっしゃいますか」
と、誰かを探しに来た。


 「ハイ」と、返事をして、みどりさんが行ってしまい、僕は、狐につままれたような気がした。


 しばらくして戻って来たみどりさんに、僕は、思いきって聞いてみた。
「今、確か、葵さんとか」
「うん、葵が本名。ほら、源氏物語の葵上の葵。でも、嫌いなのよ。だから、普段は、ハンドルネームのミ・ド・リ」
「・・・・・」


 「ああ、あ」と、ため息ともつかぬ声と共に、大きな伸びをした後、つぶやくように言ったみどりさんの言葉に、僕は、また、また、ビックリ仰天した。

 「今夜、亭主が来たら、先生から説明があるんだって」
 「テイシュ?」
 「うん、私、こう見えても、人妻なの」
 みどりさんは、左手をかざして見せたが、その薬指には、シルバーのリングが、光っていた。

 「学生結婚って、やつ」
 「大学に入って、一番良かったのは、彼と出会ったことかな。彼って、雲みたいな人なんだ。真っ青な空に、“ぽっかり浮んだ白い雲”」
最後は、歌うようにそう言ったのだった。
 「雲?」
 「そう、茫洋としていて、いつも私のことを、温かく包み込んでくれる・・・」

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 それから、みどりさんは、しばらくの間、黙って、窓の外をぼんやり眺めていた。

 その頬を、涙が、一筋、すうーと流れ落ちるのを見てしまった僕は、あわてて目をそらせたのだった。



 手術の日取りが決った日、みどりさんは、あの、つややかなロングヘアを、思い切り短くカットしてしまったのだった。

 手術の後、抗がん剤の治療をする予定だが、「副作用で、髪が、ごっそり抜け落ちてしまうから」、と。




c0019055_13105152.jpg「ユースケ、猿江公園知ってる?」
 「猿江公園ですか?」
 「うん、私のお気に入りのお散歩コース。三角帽子の時計塔があってね、桜の季節が、もう、最高。だから、二人とも元気だったら、来年は、そこで花見をしよう。毎日、2時から3時の間に、行ってるから」 
 「僕、絶対、行きます」


 部屋に訪ねて来たみどりさんは、宝塚の男役のようだった。目ばかりが大きくなった感じで、痛ましさに、僕の胸は、キリリと痛んだ。

 「でも、ケータイの番号、教え合ったりは、しないよ。もし、連絡して、相手の具合が悪かったら、お互いイヤじゃん?」

 そして、会うのも、今日が最後。手術の後の、病み衰えた顔なんて、見られたくはないから、絶対に、部屋に来てもいけない。
そう、念を押すと、
 「じゃ、桜の花の咲く頃に。指切りゲンマン」と、僕の小指に、自分の小指をからませて、明るく笑っていたみどりさん。
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 あのみどりさんが、病気に負けたりするはずはない。



 僕は、明日も、明後日も、葉桜の頃になっても、また、ここへやって来るだろう。みどりさんとの約束を果たすために。

 桜の季節には会えなくても、緑の風が吹き渡る、さわやかな五月になれば、きっと、みどりさんに会えるだろう。なんたって、名前が“みどり”なんだから。


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by pooch_ai | 2006-04-16 11:09

桜の背後にそそりたつのは?


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 このところ、東京タワーの人気が凄いらしい。展望台は、連日大混雑だし、お土産グッズも飛ぶような売れ行きとか。 

 それもこれも、みな、あのリリー・フランキーの「オカンと、ボクと、ときどきオトン」の、小説「東京タワー」が、130万部ものベストセラーとなったためのようだ。




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 東京で桜が満開と、報じられたとたん、冬の寒さに逆戻り。北風がピュー、ピュー吹きまくる花冷えに、デジカメの撮影に出かける気にもなれずにいた。




 それが、朝から、風もない晴天で、絶好の花見日和となった日、どうせ出かけるのなら、東京タワーと、桜の両方が見える所に、と思い、芝公園へ出かけたのだった。

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 東京タワーとは、浅からぬ縁があるため、再び脚光を浴び出したことで、懐かしさを感じていたから。
もっとも、浅からぬ縁と言っても、こちらが、一方的に、そう思っているだけの話で、あちらさまが、どうであるかは、知る由もないことだが。


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 昔、タワーの足元にあるビルで、数年間、仕事をしていた時期があった。
その当時は、朝晩、タワーを目にしていたから、食傷気味というか、そこにあるのが、当たり前で、タワーを見ても、特になんの感慨も湧いてはこなかった。

 


 それが、何十年後かに、再び、東京タワーと、毎日、顔を合わせる破目に陥ろうとは、一体、誰が予想したであろうか。
運命の神は、悪戯好きと、言うけれど、人生とは、本当に面白いものである。



c0019055_16445699.jpg数年前、大病をして、入院。生死の境を彷徨っていたのだが、10階の病室の窓から、東京タワーが、直ぐ近くに見えたのである。
 窓際のベッドに横たわったまま、目の前に、そそり立つ東京タワーを目にしたとき、「やあ、お久しぶり」と、昔の友人に再会したような、懐かしさを覚えたのだった。



 夜ともなると、タワーに灯がともり、その時間に、見舞いに来てくれていた人たちは、総じて、病人の私そっちのけで、夜景の美しさに見とれていたものであった。

 「何しに来たんだか」と、内心、ブツクサ言いながらも、私自身、夜空にそそり立つライトアップされたタワーは、毎晩眺めているのに、見飽きることはなかった。
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 特に、夜中に、目覚めたとき、タワーの灯りを目にすると、ホッと安心もし、「頑張れよ」と、励まされているような、心強さを感じたものであった。

 ポツン、ポツンと、常夜灯だけが点された、薄暗い無人の廊下を、ガラガラ点滴の台を、引きずって、トイレに行くときの心細さ、侘しさが、どれだけ救われたことか。


 だから、いざ、退院と決まったとき、生きて再び、病院から、出られるのだという喜びと同時に、明日からは、もう、東京タワーを目にすることもないのだという、一種の寂しさをも感じたものであった。

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 そんなことを思い返しているうちに、電車は目的地に着き、地上に出て、東京タワーの雄姿を目にしたときは、「やあ、また会えたね」と、感無量であった。



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 増上寺境内をはじめ、東照宮や、東京プリンスホテル・パークタワー周辺の東京タワーを取り巻く一帯は、桜が見頃で、花壇には色とりどりの花が咲き乱れていた。
満開の桜の花を仰ぎ見ながら、そぞろ歩く人々の頭上には、春の陽が降り注ぎ、のどかな光景を繰り広げていた。





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 無謀にも、出かける前は、桜入れ込みの、東京タワーの写真を、と考えていたのだが、333mの東京タワーと、桜では、高低差があり過ぎ、私のカメラの腕では、如何ともし難かった。




 半世紀近く、ラジオやテレビの電波を送り続けてきた、東京タワー。建設当初は、エッフェル塔を抜いて、世界一の高さを誇り、東京のシンボルとして、長く親しまれてきた東京タワー。c0019055_17194483.jpg





 だが、5年後には、墨田区に、610mの地上デジタル用の新タワーが完成予定とか。世代交代は、世の常とは言うものの、東京タワーの引退を、寂しく思うのは、私だけであろうか?

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by pooch_ai | 2006-04-10 16:08

やわらかき光の中に

 
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「やわらかき 光の中に輝ける 白木蓮の美しきかな」



 これは、昨年の夏、96歳でこの世を去った母が、その2年前に詠んだ歌である。



 新聞で、「江東区の汐浜運河沿いに、150本もの白木蓮が咲いている」との記事を目にしたとたん、この歌と、母の顔が浮んできて、鼻の奥が、ツンとなってしまった。

 
c0019055_17552071.jpg元気なら、連れて行って上げられるのに、と思ったら、どうしても、写真を撮って来て、見せて上げなければ、と、なにかに急き立てられるような思いで、デジカメ片手に、家を出たのであった。



 「汐風の散歩道」のネーミングも、魅力的な、運河の遊歩道は、道路よりも、一段低い位置に作られていた。  
橋の袂から、木の階段を降りて行くと、真っ白な花をつけた白木蓮の並木が、目に飛び込んできた。
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 一寸、時期が遅めだったようで、花弁のふちが、茶色くなっているものもあったが、全長約1200mにも及ぶという白木蓮の並木は、一見の価値ある光景であった。

 
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風に揺れる白木蓮の花を見上げながら、母もきっと「素晴らしいわね」と、感嘆の声を上げただろうな、と思ったら、木蓮の花にオーバーラップして、母の微笑んでいる顔が、見えるような気がした。



 母が、短歌を作り始めたのは、94歳になってからのことであった。



c0019055_1741841.jpg年老いてからは、読書と、変わり連鶴の折り紙が二大趣味であった母は、94歳の誕生日を迎えた直後、突然、手足の自由が効かなくなってしまった。




 車椅子生活を余儀なくされたうえ、折り紙はおろか、本のページがめくれず、好きな本を読むこともできなくなってしまったのだった。

 週3日、デイサービスに通い始めると、それまでの楽しみに代わるものとして、クロスワードパズルに熱中し始めた。
また、そこで、短歌をなさる方と出会い、自分もやってみる気になったのだそうだ。
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 土浦の姉夫婦と暮らしていた母は、元気だった頃は、東京へ出て来ては、私の家に、1~2ヵ月ずつ滞在していくのを楽しみにしていた。



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 だが、足が不自由になってからは、私の方が、会いに行くようになり、おしゃべりをしたり、クロスワードパズルの答えや、頭の中に、作り置きしてあった歌を、口述筆記で、私が、ノートに書き取ったりして、一緒の時間を過ごしたのだった。



 そんな風にして、書き取ったうちの一首が、前述の白木蓮の歌であり、私にとって、忘れられない母との思い出につながっている歌なのである。



c0019055_17392256.jpg私は、短歌には、全くの不案内で、どの程度のものかはわからなかったが、歌の巧拙などは、問題ではなかった。
どんな事態に陥っても、決して諦めたり、投げやりになったりせず、あれがダメなら、これ、と、常に、前向きに取り組んでいく姿勢には、頭が下がった。



 到底、私には、母を超えることはできないと思っているし、今もって、母は、私の誇りである。
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by pooch_ai | 2006-04-01 16:57


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